北の大地で初めて訪れた場所　それは神威
積丹の北の外れ　美しき日本海のいざないに
我を忘れ　童心に還るひととき

秋の夕暮れ　寒さに耐え　岬へ向かう山路は
来るものを拒むように風が吹き荒ぶ
小高き丘より望む九十九折の険しき峰

傾く夕日に馳せ参じ　その突端に立ちて眼下を望めば
海にそそり立つ巨岩に　自然の神秘を感じた瞬間
ふと水平線に目をやれば遥か沖に真っ赤な落陽

やがて暗闇に急き立てられて　僕は帰路につく
今宵の塒と決めた　いにしえの宿で　
図らずも聞かされた義経伝説　そして岩に纏わる悲話

いわれなき濡れ衣で戦に敗れ世を追われて辿り着いた
この地で　彼は若き姫とゆきずりの恋に落ちた　
傷心を癒すかりそめの愛に　命を賭けたいっときの情念

そして彼は人知れず旅立つ　一人身の孤独に耐えかねて
後を追い　この断崖より義経を想い　身を投じて命果てた
姫君の化身　それが神威岩の悲恋物語

翌朝　岬を回り海岸沿いに歩き　念仏を唱え潜る遂道
やがて立ちはだかる岸壁と伝説となった神が宿る聖なる岩
青き静かな海と悲愴な秘話はどこか不釣り合い

朝日に照らされた眩しい海原に　水無立岩はそそり立つ
積丹の空に天高く舞う海鳥よ　移りにけりな我が心と裏腹に
一途な姫君の熱き想いを　愛しき人の元へと届け給え

数百年の時を越え　幾重にも重なる偶然がもたらした奇跡
夢幻の絵空事でもなく　夢物語でもなく　紛れもない現実
それを運命と言わずして何と呼ぶ　

最果ての地　神威より愛をこめておくる　久遠の誓い
運命に弄ばれた　その精魂の行き先を見届けて　
来し方行く末に想いを馳せた　旅の途中

北の外れで夢を紡ぎ　北の大地に抱かれて僕は
かけがえのない時を過ごした　北の大地が教えてくれたもの
それは男の浪漫男の生き様そして人を愛することの意味

人の世は儚きものと知りつつ　どこかにあるはずの桃源郷
それを探して人は旅を続ける　生きている証を感じながら
またひとつ夢をこの手に握りしめ　僕は家路についた